山梨県は八ヶ岳、南アルプスそして富士山といった山々に四方を囲まれ、中央には甲府盆地が広がる地形となっています。畜産農家の多くは県の北部と富士山麓に集中しているため当家畜診療所では峡北地区と富士ヶ嶺地区に連絡所を設置し、診療を行っています。
住所 | 山梨県甲府市宝1-21-20 |
Tel | 055-228-4711 |
Fax | 055-228-4715 |
北杜市、韮崎市を主な診療エリアとし獣医師4名で診療に当たっています。酪農とともに和牛肥育も多い地域です。
住所 | 山梨県北杜市長坂町大八田6137-1 |
Tel | 0551-32-3229 |
Fax | 0551-32-4471 |
診療対象頭数(R5) 乳牛747頭 肉牛3,281頭
(疾病傷害共済加入頭数)
富士山北麓の富士河口湖町(富士ヶ嶺地区)を主な診療エリアとし、獣医師3名が診療に当たっています。富士ヶ嶺地区は標高約1000mの高原で県内最大の酪農地帯です。
住所 | 山梨県南都留郡富士河口湖町富士ヶ嶺1217 |
Tel | 0555-89-2018 |
Fax | 0555-89-2026 |
診療対象頭数(R5) 乳牛2,268頭 肉牛1,329頭
(疾病傷害共済加入頭数)
和牛遺伝資源の適正な流通管理及び知的財産としての価値の保護強化のため、次の約款に基づき対応しています。
牛乳の消費拡大と、産業動物臨床獣医師への理解を深めるため、児童・生徒さん向けの授業をお手伝いします。(学校での授業のほか、地域などのイベントでもOKです。)
※診療業務多忙の際は、対応できないこともありますので、ご了承ください。その際も、資料の提供はいたします。
対象:小学生
内容:牛乳ができるまでのお話をし、「牛乳を飲もう」と呼び掛けます。
コロナ禍やウクライナ侵攻といった昨今の情勢により、家畜の飼料価格が高騰し、さらに資材や燃料
費も上昇しています。生産費の増加は家畜農家に大きなダメージを与えています。
農家としては、より多くの牛乳を出荷して収入を増やしたいところですが、牛乳の需要が減少してい
るため、たくさん出荷すると牛乳が余り、価格が下がってしまいます。価格を上げると需要がさらに減
少する危険性もあり、簡単に価格を上げることはできません。
そのため、消費者の皆さんには、牛乳の生産の仕組みを知ってもらい、日本の酪農を維持するために
も、牛乳をもう1杯飲んでいただきたいのです。特に、小学生の皆さんには、給食のない休みの時にも
牛乳を飲んでいただきたいですね。
対象:中学生・高校生
内容:獣医師の仕事内容を紹介しながら、獣医大学での授業の様子など職業選択に役立つ話をします。
獣医師というと、ペットを診療する動物病院を思い浮かべる方が多いと思いますが、NOSAI獣医師は
産業動物臨床獣医師と呼ばれ、皆さんの毎日の食物を生産する牛・馬・豚などの家畜の病気を治療し、
畜産現場を支えています。
しかし、近年、産業動物臨床獣医師を目指す学生さんが減少しており、畜産現場では獣医師の不足が
大きな問題となっています。ぜひ、中高生の皆さんに産業動物臨床獣医師の存在とその意義を知ってい
ただきたいと思っています。
<お問い合わせ>
NOSAI山梨本所広報担当 電話055-228-4711
ホームページのお問い合わせメールフォームからでも、お気軽にどうぞ。
広報紙「NOSAI」に掲載した、獣医師職員のコラムをまとめました。
近年、和牛を生産する農家さんでWCS(ホールクロップサイレージ)がたくさん積んであるのを見かけるようになりました。
WCSは、飼料作物の穀実こくじつと茎葉けいようを細かく切断し、一緒に詰め込んで発酵させた貯蔵飼料です。牛の粗飼料ですね。秋になると、北杜市の田んぼのあちこちに転がっている1メートル位の丸形の物体がこれです。
最近はWCS専用の稲で作ることが増えています。これを稲WCS(稲発酵粗飼料)といいます。作り方は、稲の米粒が完熟する前に、穂と茎葉を同時に刈取り、機械で圧縮、ラッピングして発酵(サイレージ化)します。
稲WCSは、平成初期ごろから作られていましたが、当時はコストも高く、あまり注目を浴びることはありませんでした。
現在は、国際競争に直面する日本の畜産経営を強化するため、飼料の国産化が進められています。各県でも輸入飼料への過度の依存から脱却する目的で取り組みが行われています。
稲WCSは稲穂の付き具合により、栄養価が高い場合があり、嗜好性もよいので多給すると過肥になります。乾草と併用して栄養状態を見ながら給与してください。
また、分娩後の授乳期にはお乳が出すぎる場合がありますので、子牛が下痢をしていないか確認しましょう。
家畜診療所 獣医師 岡本 達也
コロナ禍に全国民の8割がワクチン接種を経験した結果、他のワクチン接種をも躊躇する人が増えていることをご存じですか?今回はワクチンの歴史を振り返り、このような現象がなぜ起きるのかを考えてみましょう。
世界最初のワクチンは、18世紀英国のジェンナーが開発した「天然痘」のワクチンです。天然痘によく似た「牛痘ぎゅうとう」は、人にも感染する牛の病気で、これにかかった人の膿を接種して天然痘にも有効な抗体を作るという方法です。これを種痘しゅとうといいます。
この方法は日本では1848年に佐賀藩で実施されましたが、「種痘をすると牛になる」といった風評が広がったため、その普及は簡単ではありませんでした。もちろん、今までに種痘により牛になった人はいません。
江戸時代に作成された種痘を勧める錦絵
佐賀県立図書館データベースより https://www.sagalibdb.jp/
このようなフェイクニュースを信じてしまう背景は昔も今も同じように思われます。江戸時代は情報不足、現代は情報過多から正確な情報を得ることができないことによるものです。近年のワクチンは遺伝子操作により作られているものも多く、未知なものに対する不安感が増すのかもしれません。
牛のワクチン接種にも同様なことがいえます。今春、入牧時接種に導入された「ボベラ®」は、ウイルスの病原性に関与する遺伝子を欠損させた生ワクチンです。この技術により今まで接種できなかった妊娠牛にも投与可能になりました。
家畜診療所は、組合員の皆様へ最新の情報を含め、安全性と副反応について丁寧に説明します。費用対効果を考慮した提案をさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
家畜診療所 獣医師 岡本 亜弓
春は入学や就職など新しい道に進む時期ですね。今回はこの時期にちなんで、私たち産業動物獣医師という職業の話をしようと思います。
産業動物獣医師は、牛や豚、鶏など第一次産業に関わる動物たちを診る仕事です。時に乗馬の馬やペットの山羊も診療します。NOSAI山梨では主に牛を診療しています。
獣医師になるには全国17大学の獣医学部のどこかに入学する必要があります。これはどんな獣医さんも同様です。犬猫を中心に、加えて牛、豚、鶏、馬などの勉強を行います。魚病学でエビとホタテの解剖もしましたし、爬虫類などのエキゾチックアニマルや蜂についての授業もあります。
3年生からは研究室に所属し、専門的な勉強をします。私は「産業動物内科学研究室」で、近隣の農家さんから入院してくる牛の搾乳や治療をほぼ毎日行っていました。そして6年間の勉強を終えると、獣医師の国家試験があります。昨年の新卒の合格率は81.1%でした。国家試験の発表は3月なので、落ちれば内定が取り消されることもあります。
卒業後の進路は動物病院や公務員が多いですが、その中にNOSAIなどの産業動物獣医師があります。全国の獣医療従事者が約3万6千人いる中でNOSAI獣医師は1,820人で、5%ほどです。少ないですね。私の同級生は約120人いるのですが、産業動物関係に進むのは県の保健所の先生のような人を含めても約20人でした。
獣医師というと犬猫などのペットを診る印象が強いと思います。しかし数少ないながら産業動物に携わる獣医師もいます。全国でも珍しめな獣医師が山梨県内でも診療して回っています。珍獣を見る気持ちであたたかく応援していただけると幸いです。
家畜診療所 獣医師 西尾 卓馬
人が寒い暑いと感じる目安に不快指数というものがあります。不快指数は気温と湿度から算出され、人は60以下で「寒い」、75以上で「暑い」と感じます。牛の不快指数に注目すると、子牛は人とほぼ同じである一方、成牛は30以下でやっと寒いと感じるようです。
例えば、湿度50%のとき、気温マイナス7度で不快指数30
←子牛には、カーフジャケットを着せて保温。
牛は4つの胃をもって生まれますが、哺乳時期は第四胃しか機能しません。しかし、成長に伴い第一~三胃が発達します。
成牛になると、第一胃は大きく発達し、200ℓほどの内容量となり、その中で多くの微生物が草を分解・醗酵しています。牛は、この微生物たちの働きで草から多くの栄養素を摂取することができるのです。
そして、この時発生する発酵熱こそ寒さに強い理由になります。第一胃内温度は発酵熱により約39℃をキープしています。つまり、おなかの中に、200ℓの湯たんぽを抱えているようなものであり、寒さに対してエネルギーを使わず体温維持を可能にしています。
寒さの厳しい冬ですが、牛にとってはいい季節かもしれません。
家畜診療所 獣医師 守屋 裕樹
今回は牛に被害をもたらす害虫、「サシバエ」のお話をします。
哺乳類を刺して吸血するサシバエは、春頃から発生し、涼しくなる秋にもっとも多くなります。固くて鋭い吸血針で皮膚を刺して吸血をし、その際には強い痛みと痒みをもたらします。猛暑時や夜間は牛舎のまわりの草むら等に潜んでいて、朝や夕方、吸血しに牛の元へとやってきます。
≪サシバエ≫ 発生時期:春と秋
体長:3.0~8.0㎜
吸血用の針を持つ
≪イエバエ≫ 発生時期:1年中
体長:6.0~8.0㎜
吸血の痛みや痒みによるストレスで牛は食欲が減退し、横臥おうが(寝ている)時間や反芻はんすうの回数が減少します。すると、結果的に体重減少や乳量の低下になり、経済的にも大きな損害となります。また、牛伝染性リンパ腫のような伝染病を媒介することもあります。
発生源となり得る糞尿は速やかに取り除き、牛床全体を乾燥させることで、幼虫(ウジ)が生存できない状態にします。幼虫が成虫になるのを阻害する薬の散布も効果的です。成虫に対しては、牛舎周辺の草刈り等を積極的に行って、休む場所を減らし、ハエ取り紙や駆虫薬の定期的な散布を行うことで駆除を行います。
これからの秋、牛の不調はこのサシバエのせいかもしれません。早めの対策で牛も元気に「食欲の秋」を迎えたいですね。
家畜診療所 獣医師 利根川 未沙子
「分娩予定日を過ぎているのに産まないので診てほしい」「分娩を促す薬剤を投与してほしい」など、『長期在胎』に関する診療依頼は、年間を通じて少なくありません。
平均妊娠日数を過ぎても分娩しないと、胎子の体格が成長し過ぎて難産となる危険性が高まりますし、何らかの妊娠異常がある場合には早期に治療しないと母子の健康を損なうことも。不安に思われましたら早めに家畜診療所までご相談ください。
ところで分娩予定日や平均妊娠日数が、牛の種類ごとに異なっていることをご存じでしょうか。
一般にホルスタイン種は280日程度とされていますが、同じ乳用種でもジャージー種は282日程度、ブラウンスイス種では289日程度とされています。肉用種である黒毛和種は従来285日程度と言われてきましたが、近年の再統計調査によれば290日程度まで延長しているとのことです。
この様に種類別に大きな違いがあります。一般に使われている繁殖カレンダーや早見表などでは妊娠期間を285日で計算表示しているものも多いようです。早見表の日付を鵜呑みにせず、母子の種類を考慮の上、日数を再確認されることをお勧めします。
ちなみに、家畜共済の病傷事故給付基準では、種類に関わらず経産牛は妊娠日数295日、未経産牛は290日を超えても分娩しない際に治療費給付対象と定められています。
家畜診療所 富士ヶ嶺連絡所
獣医師 鈴木 希伊
今回は慢性乳房炎の時の、注入薬の効果的な使用法の話をします。急性乳房炎の時は、乳房は発熱して赤くなって痛みも伴っているのでこんな時は無理しないで、そっと消炎剤を掛けてあげてください。
乳房炎の注入薬を入れるときは、先ず乳頭をアルコール消毒してきれいにしてから注入します。
さて、注入薬を入れるときの注意として、乳房のどこが固くなっているか確認してください。例えば、後ろの乳房を見るとかなり大きく、乳房はおしりの近くまで伸びています。
乳房の下のほうであれば薬は届きますが、おしりに近いほうであれば、薬も届きにくくなります。その時は少し手間ですが、注入薬を入れた後、下から上にも揉み上げるようにすれば届きます。
また、乳房の下側でも固く硬結していると、注入薬はしみ込んでいきませんので少し硬結部を手で揉みほぐしてください。あまり強く揉むと出血しますので、優しく痛がらない程度に揉んであげてください。
乳房炎の硬結しているところは、スポンジにチーズが詰まったような状態になっていますので、揉み解すとお乳と一緒にブツブツが出てきます。
近年、乳房炎は治りにくくなっているので、注入薬を使う時は早く治るようにひと手間を掛けると効果的です。試してみてください。
家畜診療所 所長
獣医師 岡本 達也
今回は、国中地域を診療エリアとする峡北連絡所(北杜市長坂町)の獣医師の一日をご紹介します。
8:30~
使用する器具や薬品を診療車に積み込みます。この間、農家さんからの診療依頼の電話を受けます。この日は12件の農家さんを回ることになりました。
9:00~ 【1件目】
子牛に貧血予防の鉄剤を注射
【2件目】
繁殖障害の検査
繁殖和牛に直腸検査をして卵巣や子宮の状態を確認します。
【3件目】
乳熱(分娩性低カルシウム血症)の治療
【4件目】
ケトーシス(代謝性疾患)の治療
この母牛は早産してから具合が悪いそうです。
11:00~
【5・6件目】
第四胃変位の治療、繁殖検診
13:00~
【7件目】
乳房炎の検査・治療
【8件目】
中耳炎の治療
耳の中の洗浄を行います。
【9件目】
蹄底潰瘍の治療
釘を踏んでしまい、傷が悪化。
麻酔後、傷の深部まで消毒できるように切開して消毒をした後、テーピングで保護します。
15:00~ 【10~12件目】
そのほか、予定日を過ぎても出産しない牛の診察や関節炎などの治療を終え、連絡所に戻ります。
17:00~
連絡所では血液検査や乳汁の培養検査を実施後、その日のカルテを入力し一日の業務が終了します。
家畜診療所 峡北連絡所
獣医師 佐々木 朱
皆さん、「ちくさん天気」というものをご存じですか?株式会社ウェザーニューズ、ライブストックジャパン合同会社と私の母校である北里大学獣医学部が共同で開発した牛、豚、鶏のための天気予報アプリです。その日の温度と湿度予報から家畜に対する暑熱/寒冷ストレスを数値化できるものです。このアプリを利用することで暑熱/寒冷ストレスをいち早く予測・察知して適切な対策を講じることができます。
実際に私も治療法の選択や農家さんへのアドバイスなどにこのアプリを利用しています。このアプリは、現在無償トライアルを行っており、インターネットから申し込み、畜産関係者ならどなたでも利用することができます。興味のある方は、ぜひ利用してみてください。
申込フォームはこちら→
(ライブストックジャパンHP)
家畜診療所 峡北連絡所
獣医師 増子 隆康
牛乳は子どもの頃からずっと身近にあるもので、牛乳そのものだけでなくチーズやバター、ヨーグルトなどの乳製品となり食事や料理に使用されています。暑い時期はアイスも美味しいですね。その牛乳を出すのに、牛は一体どのくらいのエネルギーを消費しているか知っていますか。
牛の体重はおよそ700kgあり、この体を維持するためには1日19,300kcalが必要です。加えて、1kgの牛乳を出すのに必要なエネルギーは1,440kcalです。1日30kgの乳を出す牛で43,200kcal、前述の維持エネルギーを合わせると、牛は1日に62,500kcalを消費しています。これを、70kgの人間に置き換えると、6,250kcalを消費していることになります。
主な運動による消費カロリーを表にまとめました。1時間の運動だけではまったく及ばず、1試合80分のラグビーだとおよそ1日7試合半しなければなりません。
また、牛が食事からこのエネルギーを摂取しようとすると93,300kcalが必要となり、70㎏の人間だと1日に9,330kcalを摂取しなければいけない計算です。カレーライス(700kcal)にすると13杯分です。牛は、人間では考えられない量の食事を食べ、とてつもないエネルギーを消費し、牛乳を出しているのです。
1日に1回は牛乳や乳製品に出会う時があると思います。その時は、その背景にいるアスリートを思い浮かべて手に取ってみてください。
家畜診療所 富士ヶ嶺連絡所
獣医師 西尾 卓馬
牛は、四肢に異常があり、跛行状態(正常な歩行ができない)になると、起立時間及び採食量・乳生産量の減少(表2参照:最大36%減)が生じるといわれます。繁殖面でも発情兆候を示す時間が正常牛と比べ短いという報告もあります。このように四肢と健康は密接な関係があります。
今回紹介する「ロコモーションスコア」(表1)は、牛の背中の状態から、跛行を早期発見するために開発されたものです。スコアは5段階に分かれており、それぞれ起立時、歩行時の背中の曲がり具合で判断します。
「足が痛そう」という診療依頼の時は多くが跛行スコア4以上の場合であり、著しく乳量が減少しています。病変が重度となると治癒までに時間を要するだけでなく、難治の場合もあります。
跛行スコア3のように常に背を曲げている牛は、削蹄や何らかの処置が必要なサインです。この段階で早期発見できれば、乳量の減少を最低限に抑えるだけでなく、牛はストレスなく快適に過ごせ、農家さんの手を煩わせることはありません。ぜひ一度、牛の背中を眺めてみてください。
家畜診療所 富士ヶ嶺連絡所
獣医師 守屋 裕樹
子牛の片耳(時として両耳)が垂れているのを見たことがありますか?
これはまさに「中耳炎」のしるし。初期状態は「耳が垂れている」のみで、元気があることも多いです。しかし、様子を見ているうちに耳の下垂(かすい)はひどくなり、発熱、哺乳欲・食欲ともに減退し子牛の体力はみるみるうちに落ちてしまいます。 重症化して内耳神経に障害が出ると頭を傾けるようになります。さらに症状が進むと、顔面神経に障害を受け、眼瞼(がんけん)麻痺が起こり、むくんだような顔つきになります。こうなると「ミルクも餌も飲み込めない」嚥下(えんげ)困難の状態となり、生死に関わることも。
この中耳炎をひきおこす主な病原体は、「牛マイコプラズマ」といわれています。抗 生物質の投与や耳洗浄で治療をしますが、重症化すると治癒が困難となり、子牛の発育に大きく影響します。
子牛の耳垂れは早期発見が重要。見つけたらすぐに獣医師に連絡してください。素早い対処で子牛の健やかな成長を守っていきましょう。
家畜診療所 峡北連絡所
獣医師 堀江 未沙子
暑さも一段落して食べ物がおいしいこの季節、不安なニュースもありますが、時にはちょっと奮発して美味しい和牛でも食べて元気出していきましょう!今回は牛肉に関するウンチクを少々。
高級和牛肉の宣伝文句に必ずと言ってよい程登場する「A5」。この二文字は牛肉の等級を表す用語であり歩留等級(牛の体のうち正味食べられる肉の割合)を示すA・B・Cの三段階評価と、脂肪交雑(霜降り)など肉質等級を示す1~5の五段階評価の組み合わせで表されるものです。
つまりA5とは「骨が細いなど歩留の大きい牛で、霜降りが非常に多い」という評価であり、例えばB2とは「やや骨太などのため歩留は中程度、脂肪が少なめで赤身がち」という等級を示します。BランクがAランクに劣る肉質という意味ではありませんので、誤解のないよう。
牛肉(ひき肉や小間切れ等は除く)に表示されている牛の個体識別番号をインターネットで調べれば品種、生年月日、性別、飼養者の住所氏名(公表は任意)等が分かります。国産牛肉の安心安全を実感できますので、一度調べてみてください。
法により全ての牛に装着が義務付けられている「個体識別番号耳標」。この番号は、牛が出生してから食肉となるまで変わらず付いて回る番号です。
さて、この番号はどこのお宅の子牛でしょう?調べてみて下さい!
家畜診療所 富士ヶ嶺連絡所
獣医師 鈴木 希伊
この頃、畜舎を回っていると、こんな真菌症の牛をよく見かけます。
真菌症の治療には殺菌消毒剤「クリアキル」を使います。目に入らないよう注意しながら牛の皮膚にかけてください。1カ月程度でゆっくり治って毛が生えてきます。
食用に供するためのクリアキルの休薬期間は5日ですが、育成牛舎では、すぐに出荷することはないので、真菌症の治療と一緒に畜舎消毒をするのがオススメです。
消毒は、畜舎の上のほうから、餌にかからないようにまいてください。金属の柵の上など、畜舎に積もったホコリの中に菌が残っています。
より効果があるのは、畜舎内が乾燥している時です。冬場は、牛に消毒薬がかかると体が冷えてしまうので、天気がよく暖かくなった時間に行ってください。
真菌症の牛を見つけたら皆さんも畜舎消毒にトライしてみてください。一般の肺炎の原因菌も消毒できますので、一石二鳥です。
真菌症は菌が原因の皮膚病で、放っておくと牛のストレスになります。人にも感染しますので、接触しないよう注意し、早く治しましょう。
クリアキルは500~1000倍に希釈して噴霧します。機械は園芸用の簡単なものでOK。月に1~2回行ってください。
家畜診療所長
獣医師 岡本 達也
人と同様、子牛も生まれる前は母牛と臍帯(さいたい)でつながっています。臍帯は母牛から栄養や排泄物の受け渡しをする組織です。産後不要となるため、分娩の過程で切れます。この切れたあとが「へそ」ですね。生まれた直後の子牛のへそは無防備で、細菌感染などを起こしやすい状態です。そのまま放置していると発育不良や化膿して予後不良になることもあります。
へそからの感染を予防するためには①生まれてすぐへそが乾く前にへその消毒を行う、②初乳の給与、③分娩房を清潔に保つことが大切になってきます。
また腫れているようでも柔らかく痛みや熱感がないもの、内容を腹腔に戻せるものは臍ヘルニアが疑われます。ヘルニア輪が3㎝程度ならネットなどで治癒できますが、それより大きい場合は外科手術が必要になることもあります。
生後1週間でのへその触診を習慣にすることでへその異常の早期発見、早期治療ができます。へそが腫れていることに気づいたら積極的に獣医師に診せるようにしましょう。
子牛の臍帯。取れたところがへそになります
家畜診療所 峡北連絡所
獣医師 増子 隆康
この季節は、人にも牛にも寒く厳しい気温となります。特に子牛たちは風邪を引きやすいので気を付けなければなりません。獣医師も「ミルクの温度には気を付けてくださいね、寒いと冷めやすいので」と話したりします。
子牛にあげるミルクは母乳と同じ38~40℃が適温です。熱すぎても冷たすぎても子牛体内の消化酵素が働かなくなり下痢の原因になります。しかし、“寒いとミルクが冷めてしまう”とは、どのくらいの時間でどのくらい温度が下がってしまうものなのでしょうか。
ポリバケツに50℃のお湯2000mlで粉ミルク300gを溶かしたミルクを作りました。気温6℃の環境で静置し、温度経過を見ていきます。
今回の条件では、“およそ30分”で38℃以下になりました。子牛の健康に良くない温度です。気温や周囲環境で違ってくると思いますが、かき混ぜたり、もっと寒い時期になったりすれば、より早く冷めてしまうので注意が必要です。
実際の農場では、計算や実験では説明のつかないことがたくさんあると思います。今回の結果はあくまで目安です。特に冬は人間の手の温度感覚も狂いますので、きちんと温度計で測るのがおすすめです。
農場の今後を担う子牛たちの健康を守る指標の中の一つとして頭の隅に置いておいてください。
ミルクを溶かすお湯は50℃以下にしてくださいね
図:気温6℃静置下におけるポリバケツ内ミルクの温度推移
家畜診療所 富士ヶ嶺連絡所
獣医師 西尾 卓馬